2021.1.12
皆様はご存じでしょうか。学者で億万長者の「本多静六」氏です。
1866年に生まれ苦学して東京帝国大学教授となり、学者でありながら40歳にして現在の価値に換算して100億円余りの資産を形成し60歳でそのほとんどを寄付した伝説の人です。
明治神宮、日比谷公園等をつくり、国立公園の生みの親と言われ、渋沢栄一、安田善治郎ら当時のトップ実業家の顧問として活躍した人です。「蓄財術」と「金銭哲学」は今も多くの人を魅了しています。その「本多静六」氏が昭和25年に記した「私の財産告白」の中で「上手な財産の譲り方」と題して次のように語っています。
これからは「不労所得」で生きていくことは難しくなり、たとえある程度の財産を受け継いでも、これで生涯安定した生活を送るということは無理でしょう。そこで、いかに子供が可愛いからといって、その子に財産を残して与えようといった古い考えはさらりと捨てて、むしろ子供自身が必要な財産は自分で創り出せるような教育を行い、親の創った財産などは、一切当てにしない人間にすることのほうが、はるかに重要問題となってきます。
私の考えた財産遺産の最もいい処分方法は、一切合切、思いきってこれを社会公共のために寄進してしまうことです。私自身も及ばずながらある程度これを実行してきました。
わずかながら残した遺産については次のように語っています。
(1)現在の財産の大部分が、親から譲られたものであるなら、親から譲られた額の大部分または全部を後継者に譲り、自分の代に作った財産だけは相続人に等分する。
(2)全部自分が作りあげた財産であれば、その1/2を後継者に譲り残りの1/4を自分の妻に、残りの1/4を子供の総数で割って分与する。
(3)自分の妻が後妻である場合は、とくに財産分配について、生前ハッキリ取り決めておく必要がある。
ついでに、遺言状について一言申しあげます。人が勤労活動期に入り妻子をもち、すでに一家の柱石になったなら、自分に万一のことがあっても、遺族や関係者を途方に迷わすことのないように、遺言状を常備し厳封の上、重要書類とともに保管しておくだけの用意が望ましい。
私は毎年大晦日に書き改めるしきたりにしています。私の遺言状には、一般財産に関するもののほか、世話になり、恩を受けた人々に対する付届けのことや、自分が死ぬと遺族のものもわからなくなるおそれのある
ことなどを細記してあります。(出典:本多静六「人生と財産(私の財産告白)」より)
さて皆様どうお感じになりましたか?
2021.1.14
民法では遺産の相続人になれる人、その順位、相続人になれない人などを取り決めているほか、相続の割合、一定範囲の相続人には遺留分を決めています。その内容を見てみましょう。
法定相続人と法定相続分
相続ができる人とその配分は?
相続をする人に関しては、民法で誰がその財産を受け継ぐ権利があるのか、その順位はどうなのか、ということが規定されています。
亡くなった人の大切な財産を受け継ぐ相続人は、民法では2つに大別できます。
(1)血族相続人 (被相続人と血縁があったことによって相続が認められる人)
(2)配偶相続人 (血縁はないが被相続人と配偶関係にあったことにより相続ができる人)
(1)の血族相続人は順位があり、被相続人(亡くなった方)に子供がいる場合は子供のみ(養子や婚外の認知した子も含む)、子供がいない場合には親が第2順位、兄弟姉妹は第3順位となります。
法的に相続できる人は法定相続人といいます。また、相続する配分を法定相続分といいます。法定相続人と法定相続分は、右図のようになります。
2021.2.21
人の一生は死によって終わりますが、相続は人の死から始まります。相続が起こることを専門的には「相続が開始する」という言葉で表します。
いざという時に慌てないために、相続について知識を持っておくことは大切です。また、身内が長い期間をかけて蓄えた財産に対して、良い相談をし、良い人間関係を築いていくためには、相続の開始の時にうまく対応することが必要です。
では、相続が開始した時に、どんな手続きをすればいいのでしょう?
相続開始時の手続きには、主に下記の2つがあります。
(1)遺産を分ける(遺産分割)
(2)相続税を計算し税金を納める
この(1)民法の問題と、(2)の税金の問題とが2大柱です。
2021.3.30
(1)遺産分割とは
ある人が死亡すると、その人が所有していた財産は、相続人全員が持ち合っている、いわば一種の共有財産の状態となります。この財産を相続する資格がある人たちが、誰が何をというように、具体的に配分することを遺産分割といいます。
遺産の分割は、相続人が話し合って納得すれば、何をどのように行ってもかまいません。法律ではだれがどれだけという決まり(法定相続分)がありますが、この通りでなくても全員の了解があればいいわけです。
(2)遺産分割の方法
遺産分轄を行う前には、相続財産が全部でどれだけあるのかを明らかにする必要があります。そのうえで、相続人でどのように分けるか話し合うわけです。
分割の方法はいろいろありますが、主なものを3つ挙げてみましょう。
①現物相続
相続人ごとにどの財産を取得するかを具体的に決める方法です。最も基本的な方法で、世間でのほとんどがこの方法といえるでしょう。
②換価分割
財産をお金に換え、相続分に応じて分配するやり方です。例えば家と土地が1か所しかなくて、それを何人かで分けた場合などにこの方法がとられます。
③代償分割
仕事などの後継者が大部分を継いで、他の相続人には代わりにお金などを支払う方法です。
2021.4.24
日頃、親兄弟とどのようにつきあっていますか?ふだんのコミュニケーションが、遺産を分ける話し合いにも微妙に影響するようです。良い人間関係を保つことは何につけても大切なことです。
(1)日頃の人間関係が大きく影響
相続の分割には相続開始までの人間関係が大きく影響するというのが実感です。日頃から、兄弟などの人間関係がうまくいっていたり信頼関係があれば、相続の話し合いのときも意志の疎通は生まれやすいものです。
「魅は与によって生じ、求によって滅す」という言葉があります。あの人は魅力があるというときは、与える(物だけではなく、気持ちも含めて)人であり、求めるばかりの人は魅力が減っていくものだということを表した言葉です。こうした心がけも大切なことです。
2021.5.30
葬式は、単に形だけの問題ではありません。そこから、亡き人の遺志を尊重し、物心両面で基盤を継承していくことが大切です。物のみにとらわれない相続をかんがえてみたいものです。
(1)故人の遺志を尊重
葬儀は人生の集大成ともいえるものです。これをつつがなく行うために必要なものは何でしょうか。それは、なによりも故人の遺志を尊重することです。故人の遺志こそは、何ものにも替えがたい指針です。故人の人生観やポリシー、金銭や財産に対する考え方、教養、知恵、趣味指向、個性・・・。生前の故人の言動や思い出の中から故人の遺志を探り、故人が喜ぶであろう、その人らしい葬儀の方法をとり行うことを考えることです。
残された者の都合や考えで行うことは慎み、故人の遺志を反映させてこそ、いい葬儀といえるでしょう。
こうしたことを考えて、できれば生前に葬儀について聞いておけるにこしたことはありません。しかし、単刀直入に聞くべきことではありませんから、日頃の日常会話の中でさりげなく交わしたやり取りから探ることが必要でしょう。知っている方が亡くなったときの話題などでは、そうした考えを聞ける機会かもしれません。
葬儀は単なる形式の問題ではありません。これまでの故人との関わりに感謝し、故人の魂が安らかに召されるように取り計らうことが大切です。
2021.6.29
分割協議のとき、知っておきたい税務法務 その1
申告期限までに分割協議を済ませていないと、税金面での優遇が受けられないなど、不利な点がいくつか生じます。十分な話し合いで、できるだけ早く解決したいものです。
(1)分割協議が申告期限までに決まらないと不利なこと
民法上、遺産分割協議をいつまでに決めなければならない、という期限はありませんが、相続税の申告期限が相続開始から10ヶ月以内と定められているため、できればこの期限に間に合うように分割を確定させることが望ましいといえます。また、税法上、未分割のままでは受けられない特例(ただし、3年以内に分割を確定させれば、遡って適用を受けられます)がいくつかあるので、経済上(税額の大小)も申告期限前、遅くとも申告期限から3年以内に分割を確定させた方が有利となります。
まずここでは、税金面でどんな不利な点があるのかを説明しておきましょう。
①配偶者の税額軽減が受けられない
配偶者が法定相続分以上の財産を相続した場合に、法定相続分と1憶6000万円のいずれか多い額までに相当する分には税金をかけないという税額軽減の制度があります。分割協議は申告期限までに決めるのが原則ですが、決まらない場合には、申告期限から3年以内に決めることが、この特例を受ける前提条件となっています。その期限内であれば、配偶者の税額軽減が受けられますが、それ以降では裁判所係争以外の場合には受けられませんので、大損をしてしまうことになります。
②小規模宅地等の評価減が受けられない
宅地を相続する場合には、330㎡までの居住用もしくは400㎡までの事業用の土地は50%もしくは80%まで相続税の評価が安くなるという制度があります。
この小規模宅地等の評価減も、申告期限まで、ないしは期限後3年までに分割協議が決まらないと受けられません。この制度が適用できないと大変不利になります。
2021.7.30
③物納が不可能に
現金で相続税が払えないときは延納の方法をとることが多くありますが、延納は利息(利子税)を払うのが大変になってきます。こんなときに、土地などの物納の方法をとることもできます。物納をしたいと思った場合、申告期限内に物納申請書を提出します。しかし、税務署は係争物件は受け取ってくれませんから、分割協議は先に決めておく必要があります。
また、土地を売ったときに、相続税の取得費加算といって、売ったときの譲渡所得税の計算上の原価に相続税を加算してくれるという決まりがあります。これも3年経つと使えなくなります。したがって、これも申告期限から3年以内に決まっていないと不利なことです。
(2)申告期限に決まらないものは3年後でも同じ
実例から言うと、分割協議が申告期限までに決まらずに配偶者の税額軽減や小規模宅地等の評価減が取れないものは、やはり3年以内にも決まらず、ほとんどが取れないのが実情です。
10ヶ月の間にもめて納まらず、とりあえず法定相続分通りにやっておいたとします。これは税法上は問題がありませんが、申告期限に決まらない案件は、3年たってもやはり同じ状態です。3年あるから「冷静になって、皆が損することだから話し合い、何とか1歩も2歩も譲りながら決めましょう」とはなりません。
そんなときに税理士などから、「税金を安くするというのは皆さんの共通の認識、共通の利益なんだから、冷静にやりましょうよ」と言われても、カッカするだけです。こんな有り様では、「申告期限までに決まっていたら、こんなことにならなかったのに!」となってしまいます。
分割協議は本来は法律の話なので、弁護士にまかせるほうがよいのですが、税務面から見て皆の損になる場合もあり、さらに裁判は大変長い期間と多大な費用を要するため、なるべく話し合いで解決したいものです。
2021.8.31
相続をするときに、できれば配偶者が受け取っておいたほうがいい財産があります。評価の下がりそうなもの、物納したくない土地、現金などです。その理由を探ってみましょう。
(1)評価が下がりそうなものは配偶者に
分割協議を進める中で、配偶者が相続したほうが有利と思えるものがいくつかあります。これは、今後評価が下がりそうなもの(例えば、土地とか株式の中で対象となるもの)は配偶者が相続したほうがいいでしょう。
これはなぜでしょうか。例えば夫が亡くなってから年月が過ぎると、次に妻が亡くなることになります。すると、また相続があるわけです。しかし、その時はもう配偶者がいないわけですから、配偶者の税額軽減は使えず、相続税が高くなる可能性があるわけです。
ですから、最初に配偶者が亡くなったときの相続では、評価が上がりそうなものはできれば子供たちに配分し、下がりそうなものは配偶者に配分するほうが税務上は有利になります。
2021.9.8
(2)物納したくない土地は配偶者に
配偶者は半分までは相続税がかからないので、半分まで相続するならば納税義務者になりません。子供たちは納税義務者となります。
そこで、土地がいくつかある場合、物納したい土地は子供たちが相続し、物納したくない土地は配偶者に分けた方が利点があります。それは、相続税は子供たちが納めるので、物納申請のときに物納したくない土地は取られないで済むからです。
例えば、物納したいと申し出た土地に対して、万が一、税務署が「その土地はあまりいい土地ではない。もっといい土地があるのではないですか?」と言ってきても、「いい土地は母のものですし、納めるのは私ですから・・・」と言うこともできます。
(3)現金預金も配偶者に
物納したい財産があるけれどお金もあるという場合には、税務署から「お金を先に納めなさい」と言われます。そこで父親が亡くなった場合、現実に母親がお金を取り、子供たちはお金がなくて物納すると税務署の申請は通りやすいというのが正直なところです。申請を通すのを目的にするのはちょっと問題ですが、現実はそうなります。
それに、預貯金は配偶者が受け取ったほうが今後の生活のためにも精神的にもいいと考えられます。
2021.10.31
子供が相続したほうがいい財産は、小規模宅地の評価減を適用したい土地、将来評価が上がりそうな土地などです。また、売却したい物件は複数で相続します。それはなぜでしょうか?
(1)評価減対象の小規模宅地は子供が
相続時に子供たちが受け取っておいたほうがいいと思われるものに、小規模宅地の評価減を適用したい土地などがあります。
小規模宅地は、現在、330㎡までの居住用もしくは400㎡までの事業用の土地は50%もしくは80%まで相続税の評価が安くなります。もしこれを配偶者が相続しておくと、次の相続が発生した時に小規模宅地の評価減が現在のままかどうか分からないということが考えられます。このへんは微妙ですから、小規模宅地の評価減を適用した土地は子供たちが受け取っておいたほうがいいのではないかと思われます。
2021.11.29
(2)評価が上がりそうなものは子供が
子供たちが相続するといいと思われるものは、今後評価が上がりそうなものです。例えば、区画整理中の土地とか、再開発が決定していてくねくね曲がった道路を真っ直ぐにしたり、前の土地を新しい土地に変えること(換地という)が行われる可能性がある土地などは、評価が上がりそうだと考えられます。
そうした土地は区画整理が済むと、それまでは固定資産税の倍率で評価していたのが、急に路線価がついて土地がかなり上がってしまうケースがあります。
収用の予定地などで将来相続が発生しそうな頃には大きな道路に面する土地になる見通しのある土地は、子供が相続したほうがいいでしょう。それを母親が継ぐと、次の相続時に子供たちが受け継ぐことになり、評価額が上がってしまって税金が大変です。
(3)売却しそうなものは複数で
売却しそうな財産は複数で相続するとよい、という原則があります。それは、売却時の税率が関係してくるからです。
通常、居住用財産を売った時は譲渡益の3000万円が控除されるという、居住用の特例があります。さらに、譲渡益が6000万円までは14%、6000万円を超えた分は20%という軽減税率があります。この軽減税率は10年超所有していた居住用不動産に適用されます。
こうした税率を考えると、相続する2人(例えば母親と娘など)が一緒に住んでいたなら、一緒に相続すると居住用特例も軽減税率も2人分の適用が受けられ、大変特になります。
2022.1.5
借金のついた物件がある場合や、1人が事業の都合などで大部分を相続する場合などがあります。こんなときは、どのように相続したらうまくいくのでしょうか。
(1)借入金は購入対象財産を相続した人に
被相続人に借入金があった場合は、その借入金は誰が引き継ぐのかという問題があります。一般に、借入金は、その借入金で購入した財産を相続した人が引き継ぐのが良いでしょう。
実際あったケースですが、ある印刷屋さんが機械を借金で購入しました。その方は個人で事業をやっていたのですが、印刷屋だけでは商売が難しいため、別に持っていたアパートの収入でこの借金を返していたのです。
もう1人のケースでは、銭湯を経営していて、その改装をしました。サウナやジャグジー風呂も備え、近代的で立派な設備にしたのです。その借入金の返済が銭湯の収入だけでは返せないので、所有している駐車場の収入で返そうとしていたのです。
こうしたケースの場合、相続が発生したときは少しややこしくなります。こんなときに、収入のあるアパートや駐車場を相続した人が借金も相続するというのはよくあるケースです。
資金繰りからいけば、アパートや駐車場の収入で借金を返すのですから問題はありません。しかし、借入はアパートや駐車場のものではなく、印刷機械や銭湯の設備のためにしたものです。所得税、住民税を計算するときに、借入金の利息の支払いが直接関係あるものであれば経費に算入できますが、この場合には経費にはなりません。ですから、所得税法上、不利になってしまいます。
こういう場合には、借入金と機械とアパート収入、借入金と銭湯設備と駐車場収入をセットで相続しないと、税金的には不利になります。
2022.3.31
最近は代償分割が多くなりました。代償分割というのは、例えば長男が土地を相続し、その代わりに次男やお嫁に行った長女の方はお金で解決するようなやり方です。相続財産の大部分が農地などの事業用財産で占められている場合、後継者以外が継いでもやっていけません。そんな場合に、事業の後継者が相続することになりますが、これでは他の兄弟が相続する分がなくなってしまいます。こうしたときに、代償分割という方法が有効です。
金額は議論になります。しかし、支払うお金がある場合はいいのですが、通常はないことが多いため、長男が借金までして払うこともみられます。その場合、長男は自分の収入の中から所得税も住民税もみんな払った税引き後で代償資金を払っていくので、実に大変なことです。もらうほうは、代償金に相続する相続税がかかりますが、所得税、住民税はかからないため、分割払いであったとしてももらった金額をそのまま使えるわけです。ですから、税引き後の金額でもらえるのだということを考えた上で代償分割の金額を決めないと後々払えないということになりかねません。
2022.4.1
分割対象財産は評価額ではなく時価で分けるのが原則です。また、分割の対象にならない財産があります。保険金や遺言記録の物件がそれに当たります。その実際を見てみましょう。
(1)分割対象財産
土地などは、評価と時価が違う場合が結構あります。分割対象財産は時価で分けるのが原則です。相続税は評価額が出ますから、相続税評価額で分けると勘違いする方が多いのですが、時価で分けるのです。
分割対象にならないのは、死亡保険金と死亡退職金です。死亡保険金の場合は保険証券に、死亡退職金の場合は会社の退職金規定に、「死亡した場合はこれを誰々に渡す」とほとんどの場合に明記されています。ですから、特定されていると分割の対象にならず、記載された人が受け取ることになります。
さらに、民法903条で「生前にもらっている分は原則として贈与分も分割対象財産になる」という、特別受益分の規定があります。これは知っておかなければなりません。
(2)遺言の実務
ここで、遺言について説明しましょう。遺言のことを「葵の御紋」に例える人もいます。テレビドラマ「水戸黄門」で、終わりの場面が近付くと、水戸黄門が必ず葵の御紋を出して、周囲の群衆が「ははーっ!」となる・・・、その葵の御紋です。
遺言があると、水戸黄門の葵の御紋よろしく、それによって遺産の配分が決まってしまっているから仕方がない、ということになるわけです。ただ、遺言の書き方によっては、またもめごとが出てくる場合もあります。
遺言がある場合、遺言の有効性を争うということも実際にはあります。筆跡が本当に本人のものか、意思能力つまり物事を判断できる能力があったのか、などが問われます。意思能力は、お医者さんの診断書などで説明がつく場合がよくあります。
・・・遺言が見つかったら・・・
死後に遺言書が見つかったら、勝手に開封してはいけません。封印がある場合は必ず所轄の家庭裁判所に持参します。そこで、相続人や代理人の立会いの上で開封しなければなりません。
次に、家庭裁判所の検認の手続きを受けます。遺言が公正証書であれば、この手続きは必要ありません。遺言の内容を実現させるためには、不動産の登記や動産の引渡しなどいくつもの手続きを要します。
こうした遺言の執行を行うのは遺言執行人です。遺言で指定があるものを除き、家庭裁判所に選任の申し立てを行い、遺言執行人を決定してもらって行います。
2022.5.31
また、民法891条に欠格事由という決まりがあります。これは、例えば自分に不利な遺言を破ってしまったという人がいる場合、それが立証されれば、その人は相続人としての地位を全部失ってしまうことになるわけです。
本人に誰かが書かせたのではないかという疑いが出てくることもあります。これは実際、証明が難しく、よくもめるところです。たとえ書かせたとしても、本人が書いたものであるなら、遺言には違いありません。
(3)遺言にないものは分割協議に
もめないような遺言の書き方というのがあります。それは、本人の立場を尊重しながら書くというやり方です。多少遺留分の原則を侵したとしても、本人の立場を尊重することを優先するのです。
遺言の実務としては、遺言にそって直ちに登記をします。例えば「A銀行の預金は誰々に」と書いてあるけれど、B銀行やC銀行にも預金があったなどという場合です。遺言に書いてあるもののみが有効になり、書いてないものは遺産分割の対象となります。
ーあけてびっくりの遺言ー
「もしかしたら、うちの父は遺言を書いてあるのではないか」という時のお話。遺言を公正証書として書き、公証役場に原本を保存しておく場合があります。この公正証書の遺言は、書いた人が存命中には公証役場に行っても見ることはできません。亡くなった後ならば、相続人は遺言を見ることはできます。
「うちの父は遺言が書いてあるようですが、見に行ってもいいんでしょうか?」税理士さんはこんな質問をよく受けるようです。
しかし、見たがために生前からもめごとがあっては大変ですから、書いた人が生きている間は見せないことになっています。”あけてびっくり”が遺言なのです。
この間もある相続があり、遺言があるということがわかりました。もちろん娘さんは遺言の中身は知らず、亡くなって初めて公正証書の遺言があることがわかったのです。そこで、その娘さんは公正証書の置いてある役所に見に行き、そこで初めて内容を知り、大変にがっかりさせられたという話をしていました。
生きているときに知ったら、けんかにでもなったでしょうが、亡くなった後では故人の遺志を尊重するしか仕方ありません。
2022.8.31
(4)法定相続分
法定相続分については、世の中の8割以上が長男などの後継者中心となっており、法定相続分通りの均等相続は2割しかないのが実情です。これはなぜでしょうか。
相続開始から10か月の申告期限までに相続人が話し合います。その間、税金の問題も多いため、税理士も加わってきます。そこでもめると、家庭裁判所の調停になります。調停で譲り合えれば、家庭裁判所の審判を仰ぎます。審判は普通でいう判決のようなもので、調停員が相続人を1人1人呼んで、事情や考えを聞きます。
それでも出てくる問題は寄与分ということです。民法の条項で、904条の2に「被相続人の財産の維持または増加に特別に寄与した人はその分を取っていい」というものがあります。増加というのはわかりやすいですが、維持はわかりにくい言葉です。増加は金額で示せますが、維持は立証が難しいものです。
もめているケースをよく見聞きすると、亡くなった親を気の毒に思う事があります。親が育ててくれた恩に感謝している人だったら、残してくれた財産を多いとか少ないとかで争うことが親にとってどんな辛いことなのかを考えてみたらどうでしょうか?
2022.10.3
<法定相続分は100件のうち「最後の1件」を裁くための決まりなんです>
世間では、法定相続分について、もめているのをときどき見かけます。そこで、家庭裁判所の裁判官を長く務めた方に、「法定相続分とは何なのですか?そもそも法定相続分というのはおかしいのではないですか?むしろ、『同居人や事業承継者に多く』と先に法律に書いておいたほうがもめることが少ないんじゃないですか?と聞きました。
すると、さすがに職業柄、多くの人を見てきただけあって、その答えがなかなかいいもので感心させられました。
「家庭裁判所に来る人の統計はないんですが、どのくらいあると思います?仮に相続件数の1割の人が来たとします。すると、残り9割が話し合いで解決したということになります。家裁に来た1割のうち、さらにその中の9割が調停で解決します。つまり、100件のうち最後の1件を裁くときに法定相続分というのを使うんです。『法律でこう決められているから』と。それは、皆で話し合いもできないし、家裁の調停も不調に終わった例外中の例外を裁くときに、初めて法定相続分が出てくるんです。そこまで話がこじれてしまっては、同居者や事業承継者が特別に偉いとは言えないですよね。そういうときには、人間の価値は皆一緒だとして裁くしかないんです。そのために法定相続分というのがあるんですよ」
2023.3.10
遺留分の減殺請求も最近は随分多くなりました。遺留分は民放1028条に規定があり、遺言で1人に全部相続させると書いてあっても他の相続人に何もないのはかわいそうだということで、遺留分として最低限の配分を決めてあるものです。
遺留分は、被相続人の兄弟姉妹以外、直系尊属のみ(例えば親だけしかないなど)の場合は法定相続分の3分の1、その他(通常は配偶者及び子供が多い)は法定相続分の2分の1です。
例えば、長男と妹の2人兄妹とします。本来、法定相続分は2分の1ずつですが、遺言で長男に全部と書いてあった場合、その2分の1のさらに半分の4分の1が妹さんの遺留分となります。この4分の1については減殺請求の手続きをすれば、遺留分として取り戻すことができます。請求するかしないかはその方の選択です。
相続分は、相続財産プラス贈与分マイナス債務を全財産として計算します。ただ、民法1030条にあるように、もらう側も渡す側も、遺留分の権利者に損害を与えるのを知って敢えて贈与したときは、それ以前でも対象になります。
遺留分の減殺請求権は相続の開始を知った日から1年以内に請求しないと、時効消滅になってしまいます。通常は申告期限が10か月なのでその期間に解決し、解決しなかったら遺留分の減殺請求ということになります。
具体的な手続きは弁護士にお願いすることになります。持ち分としては決まっているので、手続きはそれほど煩雑ではありません。ただ、何をどう受け取るかという和解が成立するまでに時間がかかるかもしれん
2023.5.30
税務について税理士に依頼したとき、分割協議をどのようにお手伝いしてくれるのかのプロセスをたどってみましょう。そこから、分割協議の注意点やコツが浮かび上がってきます。
「分割協議は本来法律業務なので税理士の仕事ではない」という意見も多いようです。しかし、裁判にならない限り弁護士に頼む人は少なく、税理士の方に質問することが多いのも事実です。
ここではどのように税理士に依頼し、話を進めていくのかをご紹介しておきましょう。
(1)出会い
相続税を専門にしている税理士は、最初に遺族の方との出会いのときに、亡くなった方の仏壇にお線香をあげる方もいます。今、相続が発生している家は大体仏壇がしっかりしている傾向があり、仏教の方はお線香もあげやすいところに置いてあります。そこで何をするのかと言うと、亡くなった方との対話をするというものです。
相続の対象は、目に見えないものを見えるものがあります。実際に、お豆腐屋さんの長男が「私の父は朝早く起きて、一所懸命仕事をしてきました。そんな姿を見て私は育ってきました。父から受け継いだ仕事については、私は苦しいと思ったことはありません」と言っていました。こうした目に見えない思い出が大切で、それを続けるのが相続なのです。
(2)ヒアリング
次にヒアリングというステップに入りますが、税理士にはなるべく早い機会に相続人の皆さんに会ってもらいってください。会ってもらうときは、税理士は経験上「この家はもめそうか、そうでないか」ということがある程度わかりますので、もめそうにない場合には「調整をうまくしてください」と相続人たちに話し合いを任せます。
「どうもちょっと気配が・・・」というときには、税理士はなるべく早くあいさつに来ます。すると相続人たちは「どうなの、うちの場合は?」と、まず不安を口にします。「いや、これから計算するので何とも言えませんけれど、まずはご質問やご不安もあるでしょうから、何なりと声をかけてください」となります。
そこで、税理士から「被相続人はどんな方でいらっしゃいましたか?」と聞かれます。これが後で役に立ちます。税理士が「被相続人だったら、こんな遺産相続をするだろう」というたたき台を作るときに、被相続人のことをよくお話しておくと役立つのです。
そして、考え方の近い人をグループ分けし、キーマンは誰かという視点で聞かれます。
次に、税理士は相続人の各家を訪ね、本人だけでなく配偶者からも、もし意見があれば聞きます。その中には、積極的に加わる人、家内に任せてますという人、遠慮がちにしゃべる人など、いろいろな人がいます。配偶者のほうが、本人が言いにくいことも言えるのでいい場合もあります。
ただし、税理士は他の兄弟には配偶者の意見だということは言いません。本人の意見だということで進めるわけです。そうしないと「よそ者がつくからややこしくなるんだ」ということになり、よけい感情がもつれてしまいます。